July 15, 2009

志怪棚 二段目

*「引越しでインターネットが出来ない間にネタを溜めていた志怪棚の第二段をお届けします。最近、なぎら健壱さんの本とか、路上観察学会の本とかばかり読んでいて、志怪・怪談方面がご無沙汰なのでこれでちょっとの間打ち止めかもです。(もうネタ切れ?!)


■ 志怪棚 二段目

五、未来過去の事を知り得る管輅という人物が南陽の平原を通るとき、田中に働く少年を見てため息をついた。それを見た少年が理由を問うと、「何の事でもない、君が二十歳にならずに死ぬと思うからさ。」と答えた。なんとか寿命を延ばす方法は無いかと嘆願すると、天命はどうにもならぬものであるが、折角の頼みだから方法を講じてみると言う。

先ず家に帰ったら清酒一樽と鹿の乾肉を用意しておくこと。そしてしばらくすると大きな桑の樹の下に二人で碁を打つ男がある、この酒と肉を持って前に置けば必ず飲み食いをするに違いない。酒が無くなったらつぐこと、何を聞かれてもお辞儀だけして何も云ってはならない。

実際に桑の樹の下には二人の男が碁を打っていた。云われた通りにすると、二人は飲み食いをした。一局終えたところで、北側の男が「何故ここに来た?」と少年を叱り付けた。それでも言葉を発さずにお辞儀だけをしていると、南側の男が「まあまあ我々もご馳走になったのだから。」と取り成した。
少年が抱えた文書を見た二人は、これならわけがない、といって『寿十九』の文字を筆で転倒させ『寿九十』としたので少年は九十まで生き永らえる事となった。

北側にいたのが北斗、南側にいたのが南斗で、共に星の精らしい。
(『捜神記』、『三国志演義』など)


六、有馬で湯浴みをした時、日暮れの湯桁にて耳目鼻の無い痩せ坊主がひとりお湯に入るのを見た。大いに驚いて物影より窺っていると、早々と湯浴みを終えて出て行く姿がまるで骸骨の絵のようであった。これは狐狸どもにたぶらかされたかと、その日は湯にも入らずに臥した。
夜が明けこの事を主に語った所、それこそは折節に来たり給う人なり、と言って語り始めた。

かの尼僧は、大阪の唐物承認伏見屋の娘で、美人との評判であった。姑が病に臥せている時、伏見屋の隣家より失火がありその病床に火が迫ったが助け出そうという人もなかった。そこにかの尼が飛び入り姑を抱えて助け出したが、その時に焼けた傷によって目は豆粒ばかりとなり口は半分程しか開かなくなってしまった。

しかし、物も見え食べる事も出来、たまに湯治に来るのである。今年で七十にもなると聞くが、とても有難い人なので、折を見てはこの話を人にしているという。
(柳里恭『雲萍雑志』より)


七、蓮の実を売る地蔵盆の頃になると、白い綿のような物のついている小さい羽虫が街を飛ぶ。これを捕える子供等は「オボー三尺下ンがれよ」と云う、極めて幽暗な唄を歌った。オボーというのがこの虫の名前らしい。
(沼波瓊音『乳のぬくみ』より)


八、杭州の劉以賢は肖像画を得意とする画工であった。隣に親ひとり子ひとりの家があったが、この父親が病死した。息子から棺を買いに行く間に父の顔を写してほしいと頼まれ、劉は一人二階へあがり骸の顔を描き出した。するとその死骸が忽ち起き上がった。劉ははっと思うと同時に、それが走屍というものであるとすぐに覚った。

走屍は人を追うと伝えられている。自分が逃げれば死骸も追ってくるに相違無い。いっそ画を描きあげてしまったほうが好いと覚悟を決めて筆を動かし始めた。すると死骸も同じように手を動かしている。劉は筆を動かしながら大きな声で人を呼んだが返事はない。鬼気はいよいよ人に遍って、劉の筆先も震えてきた。

そのうちに倅が帰ってきたが、父の姿がこの体であるのを見て倒れてしまった。その声で隣の人も気付いたが、驚いて梯子から転げ落ちた。そこへ棺桶屋が棺を運び込んできたので、劉はすぐに声をかけた。
「早く箒を持って来てくれ。箒草の箒を…。」
棺桶屋は流石に商売で、走屍などには左のみ驚かない。走屍を撃ち倒すには箒草の箒を用いることを予めこころ得ているので、すぐさま箒でかの死骸を撃ち攘うと、死骸はもとのごとくに倒れた。
(袁子才『子不語』より)


[コメント]
(五)の管輅という人物は『捜神記』や『三国志演義』、『三国志』などで描かれている人物。北斗と南斗が人の姿となって対局しているという情景がとってもロマンチックで好きな話。この話をヒントに『北斗の拳』が作られたとも言われているらしい…。

(六)は岡本綺堂の随筆集『江戸の思い出』から採集しましたが、綺堂の解説の余韻がまた良い。「これは怪談どころか、一種の美談であるが…(中略)…元来、温泉は病人の入浴するところで、その中には右のごとき畸形や異形の人もまじっていたであろうから、それを誤り伝えて種々の怪談を生み出した例も少なくないだろう。」

(七)白い綿のついた羽虫、この話はとても古いし僕は見た事はないのだろうけど、何故か記憶にあるという気がする。通っていた小学校の校庭や、友達の家からの帰り道にオボーが居たような気がする。

(八)はキョンシーというか、スリラーというか、死骸が起き上がって自分の真似をするという不気味な話なのだけれど、ほうきというアイテムが加わる事でなんとなくおかしみが滲み出て愛嬌のある話になってます。
これは杉浦日向子さんが『百日紅』で題材にしていて、この話でいう劉氏が葛飾北斎に、棺桶屋が北斎の娘のお栄になっています。動くに動けぬ脂汗の北斎に「モウロクすんなヨ ほうきじゃねえか」と言い放って『ビシッ』と死人を打ち据えるお栄の姿がシビれる一話。これに、"ほうきを逆さに立てかけておくと厭な客がすぐ帰る"という逆さ箒のおまじないという絶妙なエッセンスを加えて仕上げられております。

僕も引っ越してから玄関にほうきを買いました。あくまでも向かいの畑から吹き込んでくる葉っぱを掃きだす実用の目的で、別に厭な客も走屍も来やあしませんが…。▼

Posted by Takuya Endo at July 15, 2009 12:05 AM
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