August 03, 2008

文藝怪談実話

文藝怪談実話

*「夏でなくとも年中怪談は好んで読んでいますが、夏となると出版が多くなるので特に嬉しいです。中でも東雅夫さん編の文豪怪談傑作選シリーズはとても面白いのでいつも楽しみに読んでいます。この7月に出たのは特別篇第二弾の『文藝怪談実話』。これが兎に角恐くて素晴らしいので読み終えたばかりですけど紹介したいと思います。

まずはタイトルに掲げられている"実話"という二文字。これは、その文章の書き手が実体験した、または人づてに聞いた実体験を記したものであるという事を示しています。怪談実話は創作怪談または怪談文学とは似て非なるものであり楽しみ方も違うのですが、時に怪談実話が怪談文学を超える詩情を垣間見せる瞬間があります。実体験だけに話に想いが宿っているのでしょう。そういう話が正に『文藝怪談実話』であり、この本に多く収められています。うまいタイトルをつけるなあと感心しました。

その視点で僕が気に入ったのは都筑道夫さんの『夜の寺』でした。お寺で百物語の会をやった後に参加者達が次々と奇禍に遭うという話で、最初に亡くなってしまうお寺の娘さんの何となく達観しているような物言いや、都筑道夫さんにとっての彼女の印象など。淡々と描きつつも愛着がこぼれていてとても切ない。

そして、"実話"と謳っている以上はやはりリアリティがあるので、恐がらそうとして書いている創作怪談を恐怖面で上回ってしまう事があります。
その線でいくと今回の目玉ともいえる、中盤の章「史上最恐の怪談実話!? - 田中河内介異聞」にまとめられている数篇が凄いです。"史上最恐"の文句に偽り無し!京橋の書画屋で行われた百物語会(泉鏡花も参加していたという)に突然現れた男が、タナカ・カワチノスケという寺田屋事件に関わった人物の最期を話したいという。これを知っているのはもう自分しかおらず話せばよくない事が起こると言って話し始め、全て話し終えぬうちに絶命してしまう…。ここまで書いただけでキーボードを打つ手が震えてきましたが、実際にあったというこの事件にまつわる様々な因縁や異説がいくつか掲載されています。異説が存在するというのは現代の都市伝説に近いものがありますね。
この数編についても言えるのですが東さんの話の配置が絶妙で、まるで匠のDJのごとき手捌きでバシバシ繋いでいきます。あとがきに「明治の文豪から平成の人気作家まで、時代を超えて多彩な文人墨客、名優や碩学が一堂に会するヴァーチャルな百物語、夢のベストメンバーによる怪談会を、紙上に幻成せしめようという目論見である。」とありますが、小泉八雲が「結局、幽霊の最大の敵は近代の建築家に他ならないことになる。」と洋館における幽霊の実際について喋るに次いで、圓朝が流麗なる口調で自身の百物語に収めようとしていた虎の子怪談噺を披露。続けて綺堂が「今度はわたしの番になった。席順であるから致し方ない」と語り始める流れは怪談ファン感涙。ロマンチックですなあ。

また、後半の「文壇と怪談と-大正・昭和作家篇」でも東さんの手腕が光るおっそろしい連鎖が…。ネタバレになるので書きませんが、稲垣足穂の「黒猫と女の子」冒頭でドキーッ!恐怖で一旦本閉じましたもん。こんなのって久しぶり…涼しくなりたい方には本当にオススメです。

当シリーズ、8月刊行は『小川未明集』ということでこれもまた楽しみです。▼

Posted by Takuya Endo at August 3, 2008 01:26 AM
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