November 05, 2007

阿佐ヶ谷ジャズストリート→音の間 ことばの魔→飛魂 [Ⅰ]

*「ここ最近また良いライブに恵まれているので、長くなりますがご報告。

先月末には阿佐ヶ谷ジャズストリートに参加しました。以前友人に連れられ神社で山下洋輔さんの演奏を聴いて以来で、今回は大好きな渋谷毅先生がエリントンを演られるというので。
東京は台風の日で、駅前の喫茶店に辿り着くだけでもう既にびしょ濡れ…勿論そのせいでいつものような人出は見られず、屋外での演奏も全て中止となっていました。残念です。そして豪雨の中多少迷いながら、渋谷毅エッセンシャルエリントンの演奏会場である産業商工会館へ到着。入場時にすれ違った渋谷先生は今日も学校の先生みたいに颯爽と歩いていてかっこいい。

エリントンばかりをやるバンドなので、1曲目はもちろんエリントン。優しさのあるとてもいい曲でした。曲名は残念ながら失念。次にやったのはエリントンがシェークスピアを題材に作ったアルバム『Such Sweet Thunder』からSonnet forとつく4つの小曲を続けて。これも趣きの違う4曲ながら、それぞれに特徴があって面白い。
…なんというか選曲が素晴らしいのです。エリントンだからいい曲がたくさんあるのでしょうが、その中でも特にセンスの良い楽曲を取り上げられているような気がします。
後半はボーカルにゲストとして清水秀子さんを加え、"Prelude To A Kiss"、"Caravan"などの定番を演奏しました。老若男女が集うジャズ・ストリートならではのはからいといったところでしょうか。ラストは"Take The A Train"で締めました。

峰厚介さんのソロや、松風鉱一さんの様々な楽器に持ち替えてのいぶし銀なプレイもとても印象的でしたが、今回特に残ったのは外山明さんのドラムです。特にソロはなんだか凄かったです。力の抜け方が絶妙でフシギとスリリング。渋谷先生も外山さんのソロ終わりのタイミングに戸惑って思わず笑っていらっしゃいました。渋谷先生のバンドにはこういう個性を持った方が必ず一人か二人くらいいらっしゃるような気がします。そういったところからジャズの良さが零れ落ちるようなのが好きで、また見に行きたくなってしまうのです。あとは、MCで"アンコールという作業が面倒なので続けてA Trainを演奏して終わります。ありがとうございました。"と言ってらして、アンコールを作業と呼んでしまうような、アーティストというよりもやはり学校の先生を思わせる物腰に惹かれます。

ホールを出た後も強い風雨でしたが折角フリーパスを買ったので、頑張って小学校の体育館での演奏を聞きにいってみました。そこで何故かケーブルテレビ(J-COM)の人に声をかけられインタビューを受けました。インタビュアーがケーブルテレビらしい素人お姉さんという感じで、僕らもきっとオンエアーを見たら赤面してしまうようなシロモノになっていそうですが、一行3名で出演しております。いつ、どうやったら観れるのかも知りませんが…。

先週末は二日間連続で同じアーティスト、ジャズピアニストの高瀬アキさんと作家の多和田葉子さんによるデュオを観ました。二人はベルリン在住なのでこれは来日公演という事になります。昨年、この二人のCDや本を貸してもらってからずっとはまっていて、高瀬さんに関してはこちらのエントリーこちらのエントリーでも少し触れています。
この二人によるライブがとてもよいという事は常々聞いていたのに、昨年の公演は行きそびれてしまったので、今年は飛付いて思わず2公演分のチケットを買いました。

金曜日は神奈川県民ホールのギャラリーにて"音の間 ことばの魔"と題された公演でした。ギャラリーは地下にあり階段を降りていくと、まるで巨大蜘蛛が巣をはったかのように天井から床へ毛糸が張り巡らされ暗闇に美しく浮かび上がっていました。ステージ上のオブジェや聴衆の椅子までも糸に取り込まれており、見たことの無いような異空間と化しています。同会場にて1ヶ月間展示をしているこれまたベルリン在住の美術作家、塩田千春さんの作品の中でライブを聞くという趣向のようです。
いよいよ登場した多和田葉子さんと高瀬アキさん、静寂を破る待望の一音目、多和田さんは見た目と裏腹に芯のある不思議な声、とてもいい声。高瀬さんは見た目に違わずしなやかで、でも意外に繊細という、とてもいい音。何故か緊張します。
多和田さんの流れるように心地よい朗読に、高瀬さんの変幻自在のピアノが噛みつき、両者言葉をかけあい、もつれあっていきます。その様子は時に可笑しく痛快で、時に息を飲む程に美しい。多和田さんの批評性とユーモアを十二分に湛えたユニークなセンスと、高瀬さんの動物的な瞬発力と類稀なる技術がとても相性よく響きあいます。様々な日本語を集めてきてまな板の上に載せ、それらを音で切ったり、形で盛り合わせたり、ピアノの音を添えたり、またはその逆で高瀬さんのピアノの演奏に色々な言葉が味付けをしたり、絶妙のバランスで両者がまぜあったり…。

ステージ中央にあるオブジェは焼けたピアノです。元々黒いものですが、こんがりと真っ黒に焼けています。そのオブジェは塩田千春さんの作品で、このピアノを"黒神さま"という神様に見立ててそれに出会う夢遊病の少女のストーリーはこの公演ならではのものなのでしょう。幻想的なステージの演出と相俟って醸し出される少しの恐さと、塩田さんの作品を"黒神さま"に異化してしまうユーモアがとてもいいです。
続けて、饒舌なメロディーを持った高瀬さんのピアノに合わせて二人が「アーヤーメー」と歌う不思議な曲では多和田さんがアンチ・グルーヴな態度でマラカスを振るのがとても楽しく、そのマラカスの金色と多和田さんのちょっと傾いた姿勢が忘れられないかわいらしい一曲でした。そこで本公演最初の拍手が巻き起こるというのも楽しい。

そして圧巻だったのは高瀬さんのピアノソロパートです。ピアノの中にピンポン玉をたくさん流し込んでの演奏。鍵盤を叩くごとにピンポン玉がポンポンと飛び、見た目もさることながら音がすごいです。ピンポン玉が跳ねる度にピアノは金属的な音を伴なうわけですが、それが聴いているうちにどうも高瀬さんのコントロール下にあるような気さえしてくるのです。ピアノの中から飛び出すピンポン玉も後半は出そうとして出してるようにも思えたり…。

多和田さんの見所はテンポの早い、まるでラップのような朗読。Blackaliciousの曲にAlphabet AerobicsというのがあってABCの単語でラップをしていきそれがどんどん速度があがっていくという有名な曲なのですが、なんだかそれを思い出しました。

高瀬さんと多和田さんはこのようなことを日本語でピアノでやっていると言えば、二人のライブのおもしろさの一端をあらわせるかもしれません。

そして土曜日は両国にあるシアターXというホールで"飛魂 [Ⅰ]"と題された公演でした。『飛魂』とは多和田さんが1991年に出した小説のタイトルで、この公演はその朗読を挟みながら進行していきます。
シアターXは初めて行ったのですが、学校の体育館のような床が気持ちの良い場所です。二人が初めて日本で共演した場所らしく、それから毎年ここでライブをしているとの事で前日の公演よりリラックスしてやられているという印象を受けました。"あわだちそう"という演目は、二人が「○○くさ」と、くさのつく言葉を掛け合っていくという方式の即興演目です。いわゆる植物のくさで繋ぎながら、そうでない"くさ"を混ぜる事で二人の気持ちが交差するのが愉快でした。奔放且つ直感的に進める高瀬さんに対し、苦笑しながら「やりにくさ」と返す多和田さん、といった具合に前日には少なかった即興ならではの楽しみが散りばめられていました。

多和田さんの小説の面白さは、話の筋もさることながらそれ以上に言葉の選別の熟慮によるグルーヴ感があると思います。詩も沢山書かれる方であったり、日本語以外の語学もドイツ語をはじめとしてとても堪能であるという点などから、音にも相当の気を払われています。本公演のテーマとなった『飛魂』も、ストーリー的には割とフラットな印象がするのですが、言葉の形や色や音でその本一冊の起伏を作り上げているように感じました。小説なのに朗読に非常に適している。(話の中でも朗読が重要なテーマとなっています)しかし、形や色を楽しむという点ではやはり本がいい。…つまり一冊で多重に楽しめる本当によくできた本だなあと再感動しました。

シアターXでは公演後にロビーで談笑するお二人を見かける事ができたのもよかったです。神奈川県民ホールでの公演の後はワインとパスタ、両国シアターXの公演の後はビールにちゃんこという食事で締めたのですが、両会場の公演が会場の雰囲気や客層も含めてそれぞれの日の食事に意図せず対応していたような感じでした。どっちもとても良かったです。

次の週末は高瀬アキさんを更におっかけて、というか近所の武蔵野公会堂に来られるようなので是非とも聴きにいってみようと思います。▼

Posted by Takuya Endo at November 5, 2007 02:59 AM
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