November 08, 2005

沼御前(ぬまごぜん)

*「奥会津“河童に出会う旅”日記 二日目。(一日目はコチラ

10月9日(日) 福島くもり時々はれ

二日目の朝もゆっくりとなりました。こんなにしっかりとした朝食を摂るのはいつぶりだろうと思いながらご飯を食べ、河童の朝風呂をたのしみました。二日目は大蛇伝説の残る沼沢湖を訪ねようと考えていました。本数の少ない町営バスで行けるという話は聞いていたのですが、調査不足、ナント土日は走っていない…。困っていたところ、粋な若旦那のはからいで送って頂けるはこびとなりました。若旦那のいとこの男性の車に乗せて頂いたのですが、見かけはいかつくも優しい方で、金山町の産業や名産品について色々とお話を聞くことが出来ました。途中、珍しい海老が見れるというスポットに車を止めそこで塩焼きにしていた沼沢湖養殖のヒメマスをいただきました。

沼沢湖

沼沢湖はとても美しい湖で(県内一の透明度らしい)曇り空の朝の幻想的な景観は写真で見る北欧の雰囲気さえ感じさせました。その景観のせいかどうかはわかりませんが、湖の近くには井村君江先生の妖精美術館があります。井村君江先生は妖精研究で有名な方で、会長を務めるフェアリー協会では水木しげる先生も名誉顧問として名を連ねています。お互い対談の機会も多いですし、前述の『田舎の河童』の水彩画もお二人のご縁によるもの。この旅には欠かせぬスポットとして妖精美術館を訪ねることにしました。

その前に、沼沢湖に面して建っている「椎名誠記念館」に立ち寄ってみました。そもそもは「大蛇記念館」だった建物を一時的に「椎名誠記念館」にしています(なんという転身!)何故椎名誠さんが金山町に登場するのかというと、映画のロケで使用したそうなのです。一階には十数枚程度の写真が大きく展示されていて、二階はセルフサービスの喫茶「ぐびぐび」になっています。写真は枚数も少なくさっくり観終えてしまいましたが、二階「ぐびぐび」にてコーヒーブレイク。件の映画のDVDを観ながら、椎名誠さんの本は読んだことが無いけど彼は間違いなくいい人なんだろうと確信し、しみじみ金山町の事を考えていました。沼沢湖周辺は少し集落があって、これが昔ながらのつくりの家でとても良い塩梅。朝送ってくれたおじさんの話によるとスキー場があるけれど正直あまり流行っていないそうで、観光というほどの呼び物もない、とのこと。廃校を改造した宿泊施設なんかも見かけ泊まってみたくなりましたが、それも決して賑わっているようには見えませんでした。畑で作っていたのは茄子や大根、そしてたくさんのキウイ。特にキウイがおいしそう。あとはさっき食べた養殖のヒメマスなど。椎名誠さんの映画撮影、妖精美術館、大蛇伝説に河童伝説…などなどキーワードだけ並べてみても地味ながらも味わい深い村です、金山町。東北というと2年前に訪れた遠野や花巻の寡黙な農村風景を思い出しましたが、福島はそれに比べて人が明るく話し好きで親しみ易い印象です。僕はコーヒーを飲みながら金山町に対して湧く愛着をひしひしと実感しました。

妖精美術館

そして道端のキウイに心惹かれつつ妖精美術館まで歩きました。日本らしからぬ建築物の突然の登場でテンションがあがります。妖精的に価値の高いらしい絵画の数々に、ファイナルファンタジーなあのお方のデザインによるステンドグラス。漂う空気がどうしても郊外のちょっとした金持ちの家といった印象で、けっこう心地好くくつろげます。女神転生などをやっていると妙に妖精の名前に詳しくなったりしますが、ゲームのキャラクターデザインへの影響や、引用元が明らかになるようでなかなか楽しめました。あとは妖精の生態に関する展示がとても面白かったです。本当に面白かったので以下に引用しちゃいます。

[妖精を見る方法]
1.妖精界の近づく日を知る
・5月1日(メイ・デイ)
・6月24日の前夜(ミッドサマー・ナイト)
・10月31日(ハロウィーン)
2.妖精の現れる時刻を知る
 日の出寸前、影の消える正午、逢魔ヶ時、真夜中
3.妖精の塗り薬を目につける
4.四葉のクローバーを頭に乗せる
5.透視能力(セコンド・サイト)を得る
6.透視能力者の力を借りる
 右足をその人の左足の下に入れ、その人の手を頭に乗せ、その人の肩越しに目を向ける

…なんとメルヒェン!3,5,6辺り難易度高過ぎ。

[妖精の好き嫌い]
気に入る事→美しいもの、清潔な炉端、片付いた台所、きれいな水、陽気さ、楽しさ、うそいつわりのないこと
気に入らぬ事→のぞかれること、じゃまされること、散らかった台所、よごれた炉端、陰気さ、粗暴さ

[妖精の服装]
1.主な材料
 木の葉、鳥の羽、蟻や昆虫の羽、クモの巣、緑の苔、カビ、山羊の皮
2.服の色
 緑の上着に赤帽子、白いフクロウの羽が一般の妖精の好む色合い。ただしサマセットの妖精は赤い服が多い。

…などなど、色んな文献から拾ってまとめたのでしょうか、こういったパネルがいくつかかけてあって楽しいです。マジメですから、メルヘンなのです。

二階では、金山町の伝説のイメージビデオが見れますが、これも素晴らしかった。野尻川の河童の伝説も紹介されています。野尻川で馬の尻尾を引っ張って川に引きずり込むいたずらをする河童がいたのですが、ある日人間に捕まってしまいます。許しを乞う河童に対して、二度とこの辺りには来ないようにと証文をとったという典型的な河童話でした。その証文をとった岩は“河童石”と名付けられました。また、一年のうち一日だけ河童が自由に来ても良い日を設け、その日(7月7日)を“河童放し”と名付けて村人達は川には近寄らないようにしているそうです。(参考 http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/1070515.shtml

沼沢湖の大蛇伝説も紹介されていました。退治した大蛇の首を埋め、その上に沼御前神社が建てられたようです。神社は今でも沼沢湖近くに残っていて、毎年大蛇祭りが開催されます。写真によると湖の上で炎などを使ってショー的に伝説を演じていて興味深く、今度金山町に来る時は大蛇祭りが見てみたいと思いました。神社は方向が違ったので行きませんでしたが、祀られている沼御前様がいつでも沼に帰れるように湖上から真っ直ぐに参道が続いているらしく、諸星大二郎の『海竜祭の夜』を髣髴とさせます。海、湖に竜、大蛇などが絡む場合に鳥居の配置は重要なのでしょう。
他に神隠し系の伝説もイメージビデオ化されています。湖で消えたおなつという娘が、湖底の館で美しい姫様と幾日か暮らしていたという竜宮城系のお話です。沼御前の伝説との関係性には言及してはいませんでしたが、もしかしたら湖底に住んでいたのは沼御前様という解釈もあるかもしれません。“ヒメ”マスの養殖というのもキーワードかも、などと妄想は尽きません。
(おなつ伝説の別Ver.→http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/1070505.shtml

このビデオ(LD)、景色を綺麗に映しているし、伝説イメージビデオのゆるい空気感も最高なのでとても欲しくなってしまいました。全国各地で村興しのビデオとか作ってそうですけど、全部集めて地方ごとにまとめてDVDとかで商品化してほしいです。

妖精美術館でファンタジーをチャージした後は、沼沢湖を少し散歩。そして、逃すとまずい電車を逃さぬように駅を目指して歩きます。昨日分の日記に記したようにJR只見線は一日に10本以下しか走っていないのです。駅までは40分くらいだと聞いてはいましたが、念の為少し早めに歩き出しました。沼沢湖はカルデラ湖で、駅まではずっと下り坂です。山から降りてくる水路を両端に配する涼しげな道を下り国道を目指します。しばらく歩くと視界が開け、下方を流れる只見川が見えてきます。この風景がとても美しく、山歩きの疲れも吹き飛びました。只見川は吸い込まれてしまいそうなくらいに深い緑色で、絶対にかっぱの居る色。小豆洗いの伝説なんかも残っているようです。

只見川

蛇行する車道によりなかなか川に辿り着けないもどかしさがありますが、その分長い時間景色を楽しめるという飴と鞭な道のり。プリッツバター味の甘さを妙に美味しくかんじます。簡単に飛び込めそうだと思える橋、そう思わせる川を渡ると、駅はもうすぐ。雪除けの道を行き、目指すJR只見線早戸駅に到着です。早戸駅は無論無人駅で東京育ちの僕には珍しく映りましたが、それ以上に珍しいといえるのは、単線の線路の一歩先が川!電車を待つ間、思わず持っていたシートを広げて座り込みその景色に見入ってしまいました。

電車がくる10分前ともなると地元の方もホームに現れます。そのうちの一人のおばあちゃんに話し掛けられました。今年は紅葉がまだ若いということや、スキー場が儲からないなどのお話でしたが、印象的だったのはおばあちゃんの先生のお話です。サエキだかササキだったか、先生が最近なくなったそうな。その方は背後の山の上に住んでいらっしゃって、とても良い先生だったとの事です。しかし、山の上に住んでいるといっても、急勾配の険しい山なためどうやって先生が山と村を行き来しているのかが全くわからないらしいのです。おばあちゃんはいつかその方法を聞こうと思っていたのに、先生は亡くなってしまった…。その事を悔やむわけでもなく、ただ「不思議だ。」と繰り返していました。僕は沼沢湖から歩いてきたといったら驚いていましたが、おばあちゃんは会津川口の集落に住んでいて今日は早戸の温泉に入りにきたそうです。旦那さんも少し前に亡くして今は独りで住んでるのだという言葉に何故か東北の旅情を感じる僕。電車がやってきます。

昨日は雨で気付かなかったのですが、只見線からの景色は凄い。ずーっと只見川沿いです。車窓は真緑で覆われ、水面に映る山々のどちらを実像と捉えるかなんて錯覚を楽しめるほど。20分くらいで到着し只見川に後ろ髪をひかれつつ降車した会津川口の駅も、同じく只見川沿いで絶景かな。

只見線

宿に戻ってから、野尻川を少し散歩してみました。昨日の江戸東京博物館の方の調査ドキュメントに出ていた梵字岩を見つけました
そしてまた河童の湯へ。夕食は桜刺しや鯨鍋など、食べ過ぎて苦んだり。今夜もビールを飲んだり。 (三日目に続く)▼

Posted by Takuya Endo at November 8, 2005 10:57 PM | TrackBack
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