August 22, 2004
ENCHO'S GHOST
*「いよいよ涼しくなってきてしまい「夏を涼しくする為に」なんて流石に謳い難い雰囲気ですが、谷中の全生庵で幽霊画の展示を見てきたので紹介しようと思います。
東京メトロの千駄木の駅をあがって、団子坂から続くしだれ柳の道を真っ直ぐ進んだ所に全生庵はあります。噺家さんに縁のある土地柄故か、道中には美味しそうな煎餅屋さんやお蕎麦屋さんや甘味処等が立ち並び、思わず寄り道してしまいそうな程。道沿いには「円朝まつり」ののぼりが沢山立てられていますが、円朝とは「牡丹燈籠」「累が淵」「菊模様皿奇談」などの怪談噺を多く残した落語家、三遊亭円朝のことです。幽霊画のコレクションも、全生庵を菩提寺とする円朝さんのもので、彼の命日である8月11日には毎年全生庵にて円朝まつりが開催されるのです。(幽霊画は8月中ずっと公開)
入り口にて拝観料の300円を支払うと、クーラーが無いから中は暑いヨ、とうちわを貸してくれます。それをぱたぱたとやりながら、足音も目立つほどの静かな部屋へと入っていくと、壁にかけられた数々の幽霊達がぼんやりと浮かんでいます。円山応挙や河鍋暁斎等の有名な画家のものから、詳細不明の画家や写しまで多岐に渡るコレクション、京極夏彦先生の読者には特に馴染み深い姑獲鳥(うぶめ)の絵もあります。白装束を着て幽霊らしくしているせいか鳥山石燕の描いた姑獲鳥よりも、アブストラクト度が高く幽霊寄りです。石燕のは妖怪画なので特徴を見比べると面白い。
ズラリと並んだ幽霊画を見ていると、気付くことがありました。それは小物を多用しているという点です。行灯や蚊帳、屏風に香炉と、そもそも幽霊の居そうな雰囲気を作り出す小道具ですが、意識的に強調して描かれているのです。幽体化している人間は情報量を減らしていく「抜き」の意向(足がなかったり、顔が見えなかったり)で、それと対比させるように物質(器物)の類はリアルに書き込まれています。この抜き挿しはポピュラー音楽の手法に例えると所謂「ダブ」に似ています。ジャマイカのレゲエ音楽に端を発する「ダブ」という手法は乱暴に言ってしまえば、既存の楽曲からボーカルパートや各楽器パートを部分的に引き算や足し算をして低音を強調する音響彫刻、もっと云うとCRAZYなKARAOKEみたいな感じです。実際に鈴木誠一による『雪女図』(リンク先18番の絵)を見てみると、そこには日本むかしばなしに出てくるような雪女のイメージは無く、墨の内枠を人型にすることで真白い雪女の姿を表現しています。降る雪を目と口があるはずの場所に舞わせることで顔らしきものをつくっていて、そして足元に生える南天の実の赤の凶暴さといったら!ドぎついリヴァーヴのかかったギターの音にも匹敵する切れ味です。この南天の実のように「抜き」で「挿し」を強烈に印象付けるのは正しくダブのやり方です。逆の空恐ろしさも然り。実像と虚像、此岸と彼岸を意識的に描き分けると、その間に起ち表れる「何か」は何だかよくわからないくせに妙なリアルさを伴っていて怖いものです。水木しげる先生の漫画も矢鱈に書き込まれた背景が特徴的ですが、妖怪にとって重要なのはその雰囲気なのです。逆にこれらの幽霊画に共通して感じるのは、意識的に緻密に書き込まれたパートによって、意識的に抽象化されたパートをおそろしく感じさせるということ、パートでもって全体を想像させる楽しさはジャマイカのダブの楽しさであり、日本人のおばけの楽しみと等しいのです。例えば無名の画家、光村さんによる『月に柳図』(リンク先34番の絵)は月と柳と雲で幽霊の横顔を作っていて、単純に騙し絵的な読み方もできますが、僕としては "幽霊見ちゃったヨ" 心理がよく表れている傑作であると感心しました。妖怪画の世界では器物が霊を得て付喪神となった様子を描いたものがよくありますが、幽霊画の世界ではその器物が幽霊のダブワイズ/アブストラクト化を強調させる要因として機能しているのが面白いです。
見終わって、「幽霊画はダブか…」なんて考えていたら、僕の好きなレゲエのレコードでBURNING SPEARの『MARCUS GARVEY』のダブ・バージョンが『GARVEY'S GHOST』というタイトルである事を思い出しました。タイトルに取られているMARCUS GARVEYとは、ラスタ誕生に大きな影響を与えたジャマイカ人の思想家ですが、『GARVEY'S GHOST』- "ガーヴェイの幽霊" ということでジャケットに描かれている彼の肖像画が『雪女図』のように白抜きにされているので、結びつけてみるとなんだかユーモアのように感じられ思わず笑ってしまいました。
全生庵には円朝さんのお墓もあるので、コレクションを見せてもらったお礼に挨拶して帰ると良いでしょう。帰り道は日暮里方面に歩くと谷中霊園を通ることになります。散歩がてらに歩くには丁度良い距離なのでおすすめです。僕が行った日は小雨が降ったり止んだりしていた日で、涼しげで気持ちが良かった。幽玄な印象の円朝さんの辞世の句がぴったりでした。

"耳しいて聞きさだめけり露の音" - 円朝辞世の句 ▼ Posted by Takuya Endo at August 22, 2004 10:30 PM











